突然ですが,「VUCA」(ブーカ)っていう言葉,知ってますか?
Volatility(変動),Uncertainty(不安定),Complexity(複雑),Ambiguity(曖昧)の頭文字を並べたもので,主にビジネス業界において,経営を取り巻く環境がこれらキーワードに表される難しい状況にあるという,時代認識を表す言葉です。
さまざまな変化が加速化し,「たしかなもの」が何一つないとさえ思えるVUCA時代にあって,大学は一体何を売り物として高校生や親御さんたちに訴求すべきか,という難しい問いが突きつけられています。
そこで今回は,VUCA時代の大学ブランディング戦略について考えてみましょう。要するに,大学が自校の魅力を伝え,高校生に訴求するため,一体何を提案すればいいのかという問題です。
大学偏差値とオトナの事情
いったん大学に入学すると4年間(以上)在籍して,その大学を中心に学びを実践するのが通常ですから,高校生にとって大学選びはとても大事なステップです。
全国模試等をもとに予備校が推計する大学偏差値は,高校生にとって,とても気になるモノサシだと思います。これは,受験生による人気投票の結果のようなものですが,各予備校の主観的分析も組み込まれており,受験業界のメシの種でもあります。一部の全国模試が無料で受験できるのも,予備校によるビッグデータ収集のため。GoogleやFacebookの個人データ収集と同じですね。
人気投票である以上,就職がいい,人気教授がいる,「国際色豊か」といったイメージなど,様々な判断材料が受験生の志望校選択に影響しているのだと思います。そう言えば,箱根駅伝に優勝した途端に受験者数が急増した都内某大学もありましたっけ。
しかしながら,18-21歳の,人との出会いや経験次第で,およそ別人のように変わる4年間という,大事な人生の時間を投資するのに,こうした曖昧なモノサシで学びの「場」を決めるのは,ちょっと考えものです。
たとえば,「就職がいい」というのも,これまたリクルートやマイナビ等の主観的分析を経た,かなり曖昧な評価指標で,就活・人材業界のメシの種になっています。しかも,主要大学卒業生の就業後2年間離職率は3割とも4割とも言われています。要するに,人生百年時代の長いキャリアを,転職を繰り返しながら自ら組み立てていくVUCA時代にあって,新卒就職の良し悪しの判断材料としての重要性は,相対的にかなり低下しているのが現状です。
1970~80年代には,立教大学も,予備校業界から,偏差値序列の中堅校グループ「MARCH」の"R"校として一くくりにされましたね。《高学歴パイプ》がそれなりに機能した1990年代までであればまだしも,VUCA時代において,いかに時代遅れのモノサシであるか,小さな子どもにも分かる理屈です。
以上の説明で,大学偏差値は,各大学の研究・教育や学習環境の質とはかなりかけ離れたものであり,本質的に,大事な4年間を過ごす学びの「場」を選ぶ判断材料としては,あまり当てにならないことがお分かりになったと思います。
では,なぜ今でも予備校業界はこの前世紀の遺物とも言うべき大学偏差値を使い続けているのでしょうか。それはズバリ,予備校業界のオトナの事情です。大学偏差値は,予備校業界のビジネスモデルにおける中核的な事業資産なので,誰も見向きしなくなるまでは,これを手放すという経営判断はありえません。手を変え品を変え,大学業界やマスコミも巻き込んで,とにかく喧伝し続けることになります。なんと言っても,主観的分析による操作が可能ですから,新しい取り組みをする大学の偏差値は少し補正するなど,偏差値操作の舞台裏が透けて見えるようです。
教育の質・学習環境の豊かさ(機能的価値)のレッドオーシャン化
では,高校生は,一体何を判断材料として志望校を選べばいいのしょう?そして,大学側は高校生に訴求するため一体何を提案すればいいのでしょう。
え?大学なんだから,1にも2にも研究・教育の質と豊かな学習環境(立地,施設等を含む)でしょう?
たしかに,教育の質や豊かな学習環境はとても大事です。また,キャンパスの美しさも大事。これら要素が,大学側が高校生に訴求する重要なポイントであることは否定しません。
ちなみに,立教大学には優れた研究・教育者が多数在籍し,日々,学習環境向上に向けた投資もしています。つまり,学生にとって「学び」の環境としては申し分ない。また,立教大学の池袋キャンパスは国内屈指の美しさを誇っていると言って差し支えありません。
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| モリス館(池袋キャンパス) |
もっとも,ほとんどの主要大学は,教育の質や学習環境の改善・充実に向けた投資を継続的に行っています。いまは,まともな大学であれば,必ず,教育や建物等の施設の充実にどれくらいの金額を投資しているかといった財務情報が開示されています。大事な4年間を過ごす「場」を選ぶ以上,高校生のみなさんには,ぜひ志望校の財務情報を確認いただきたいと思います。
たとえば,立教大学の場合はコレ↓
http://www.rikkyo.ac.jp/about/disclosure/
要するに,どの主要大学も,高校生に訴求するため,教育・学習環境の質の改善に日々しのぎを削っているということですね。
ただし,ここである種のパラドックスが生じることに注意する必要があります。似たような指標に基づいて主要大学が投資競争を続けると,機能的な意味における教育・学習環境という《商品》の市場はレッドオーシャン化します。これについては,文科省の補助金行政による誘導の罪も軽くないと言わざるを得ませんが,「国際化」であれ「地域連携」であれ,補助金交付の条件のしばりがきついと,似たような取り組みに各大学のリソースが重点配分されることになります。
レッドオーシャン化するということは,高校生にとって,大学選びの判断材料として決め手にならない,ということを意味します。高校生の眼には,どの大学も似たり寄ったり,と映っていることでしょう。
また,一生の友人を得る機会がもっとも多いとされる4年間の人生の時間の大半を過ごす「場」を選ぶ以上,ないものねだりとは知りつつも,本当は,さらに決め手になる判断材料が欲しい!というのが高校生たちの本音でしょう。
もちろん,◯◯先生のゼミで△△について学びたい!と心に決めている人は,その動機づけに沿って志望校を選ぶ方法もありますが,16,7歳の頃の純粋無垢な思い込みに対しては,もう少しじっくり考えてみてもいいんじゃない?とおせっかいな助言もしたくなります。
さて,上記の問いに答え,大学の側から高校生に対して役に立つ判断材料を提供するという観点から,次回は,理解の助けとなる《補助線》を引くことから始めましょう。
(つづく)
《もう少し理解を深めたい人のための一冊》
山口 周
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